統計力学は、莫大な数の粒子がとりうるミクロな状態を統計的に扱うことで、物質の温度・圧力・エントロピーなどの巨視的な性質を明らかにする理論。多数の粒子(天文学的な数を扱う)・確率(ミクロ状態は確率的に起こる)・巨視的性質(観測可能な量として現れる)の3つが柱。ミクロの世界の法則を、平均や確率を通してマクロな現象へつなぐ。
私たちが扱う物質(気体・液体・固体)には約10^23個もの原子・分子が含まれており、すべての粒子の運動を1個ずつ追跡することは不可能。①粒子数が膨大で個別に解くのは現実的でない。②温度・圧力・体積などの巨視的性質が重要。③原子レベルの法則から熱現象を説明するためにミクロとマクロをつなぐ必要がある。統計力学は「全部を追う」代わりに「全体の傾向を記述する」学問。
ミクロ状態とは各粒子の位置・速度など系の詳細な状態。マクロ状態とは温度・圧力・体積など全体を表す観測量。同じマクロ状態(同じ温度・圧力)でも対応するミクロ状態は無数にある。統計力学は多数のミクロ状態の集まりから1つのマクロ状態を理解する理論。
ミクロな系では様々な状態(ミクロ状態)が実現し、それぞれに確率がある。物理量は各状態の値を確率で重み付けした平均値 ⟨A⟩ = Σ p_i A_i として表すのが基本。①確率p_i:状態ごとに起こりやすさがある。②平均値:観測量は期待値として表せる。③ゆらぎ:平均のまわりで小さく変動する。繰り返し観測で平均に収束し、個々の偶然が全体の規則へと変わる。
エントロピーは、あるマクロな状態に対応するミクロな配置(粒子の並び方や運動のしかた)の「数の多さ」を表す量。ボルツマンの式:S = k log W(Wは取りうるミクロ状態数)。①状態数が多いほどエントロピーは大きい。②熱は一般に、より実現しやすい状態(エントロピーが大きい状態)へ向かう。③「乱雑さ」というより「状態の多さ」と考えると本質的。エントロピーは、自然がどの状態を選びやすいかを示す指標。
温度は粒子の運動エネルギーの平均的な大きさに関係し、熱平衡は熱のやりとりが落ち着いた状態。高温の物体から低温の物体へ熱が移動し、時間がたつと全体で温度差がなくなる(熱平衡)。熱平衡ではマクロな量が時間的に安定し、確率分布も落ち着く。
ボルツマン分布は、熱平衡にある系で粒子が各エネルギー状態に分布する確率を与える法則。P(E) ∝ exp(-E/kT)(k:ボルツマン定数、T:絶対温度)。エネルギーが高いほど占有確率は指数関数的に小さくなる。①低エネルギーほど起こりやすい。②高温では分布が広がり高エネルギー状態を占める確率が増える。③熱平衡にある系のエネルギー分布を決める基本法則。温度が、どのエネルギー状態にどれだけ分布するかを決める。
分配関数は、系が取りうるすべての状態の寄与をまとめた量。Z = Σ_i exp(-E_i/kT)(すべての状態のボルツマン因子の総和)。分配関数から導ける量:確率 p_i = exp(-E_i/kT)/Z、内部エネルギー U = -∂lnZ/∂β(β=1/kT)、自由エネルギー F = -kT log Z、エントロピー S = k(lnZ + βU)。分配関数が分かれば、平衡系の多くの性質を統一的に記述できる。
気体から相転移まで多くの現象を説明する。気体の性質:分子の運動を統計的に扱うことで圧力・温度・体積の関係(理想気体の状態方程式)を導ける。相転移:エネルギーと粒子数の変動から水が凍る・気体になる変化の仕組みを理解できる。磁性:電子スピンの磁気作用を統計的に扱い磁石現象を説明できる。化学・材料:化学反応の平衡や半導体の電気特性など社会で使う物質の性質まで理解できる。統計力学は、物質科学・化学・工学の基盤理論。
統計力学は、ミクロな粒子世界とマクロな熱現象を結ぶ。①多数の粒子を確率的に扱う。②ミクロ状態からマクロ状態を理解する。③平均・分布・エントロピーが重要。④熱平衡ではボルツマン分布が現れる。⑤分配関数から多くの量を導ける。粒子の運動→確率分布→平均・エントロピー→温度・圧力・自由エネルギー。統計力学は、熱力学をミクロな視点から支える基本理論。