
初級2
生命科学・分子生物学
遺伝子はどう働くのか
編集部
生命の設計図であるDNAの構造から、複製・転写・翻訳のセントラルドグマまでを図解で丁寧に解説です。遺伝子発現の調節や突然変異のしくみ、CRISPR技術の応用まで、分子生物学の基礎を体系的に学べる。このスライドでは、DNAの基本構造・遺伝子・染色体・ゲノム・DNA複製・転写とRNAなど、10枚のスライドでわかりやすく解説していきます。
DNAは、リン酸・デオキシリボース・塩基からなるヌクレオチドが連なってできています。塩基は4種類あり、アデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)です。塩基対の規則として、AはTと(2本の水素結合で)、GはCと(3本の水素結合で)結合します。2本のヌクレオチド鎖が塩基対を内側にして互いに逆向きに巻きついた構造が「二重らせん構造」です。一方の鎖は5'→3'方向、もう一方は3'→5'方向という逆向き合成(アンチパラレル)の特徴があります。DNAは「塩基配列」という形で遺伝情報を保存する分子です。
DNAの情報構造には階層があります。細胞は生命の基本単位であり、その核の中にDNAが収まっています。DNAはヒストンに巻きついてクロマチンとなり、さらに凝縮して染色体を形成します(ヒトは23対)。遺伝子はDNA上の特定の領域で、mRNAやタンパク質の設計情報を持つ機能単位です。そしてゲノムは、生物が持つすべてのDNAの総称であり、遺伝子と遺伝子の間の領域も含まれます。遺伝子はDNA上の機能単位であり、ゲノムはその全体像です。
細胞分裂の前に、遺伝情報は正確にコピーされます。まずヘリカーゼが二本鎖DNAをほどき、リーディング鎖(先行鎖)は5'→3'方向に連続的に合成されます。ラギング鎖(遅延鎖)は3'→5'方向に岡崎フラグメントとして不連続に合成され、リガーゼがフラグメント同士をつなぎます。それぞれの娘DNAはもとのDNAの1本と新しく合成された1本からなる「半保存的複製」の方式をとります。DNA複製は、塩基の相補性と酵素の働きによって高精度に進みます。
転写では、RNAポリメラーゼがプロモーターに結合し、テンプレート鎖を5'→3'方向に読みながらRNAを合成します。塩基対応はA-U、G-Cとなります(RNAではチミンの代わりにウラシルを使用)。真核生物では、合成されたmRNAが核外に出る前に「プロセシング」が行われます。具体的には、5'キャップ付加(mRNAの安定化・翻訳促進)、スプライシング(イントロンを除去���エキソンをつなぐ)、ポリA付加(3'端にAAAAAAAAを付加し安定性・翻訳効率を調節)が行われます。転写は、DNAの情報をRNAという「使いやすい形」へ変換する過程です。
翻訳では、mRNA上の3つの塩基の並び(コドン)が1つのアミノ酸を指定します。まずmRNAがリボソームに結合し開始コドン(AUG)を認識します。tRNAがアンチコドンでコドンを認識し、対応するアミノ酸を運んできます。リボソーム内でアミノ酸が次々と結合され、終止コドンに達するとポリペプチド鎖が放出されてタンパク質が完成します。完成したタンパク質は構造・触媒・シグナル・速度制御など多様な機能を担います。翻訳によって、塩基配列の情報は生命機能を担うタンパク質へと変わります。
同じDNAを持ちながら、細胞ごとに働きが違う理由は遺伝子発現の調節にあります。転写因子は特定のDNA配列・調節領域に結合し、転写の開始を助けたり抑えたりするタンパク質です。エンハンサー/サイレンサーは離れた場所にあり、ループ構造でプロモーターと作用して転写を促進または抑制します。クロマチン構造では、DNAがヒストンに巻きついた状態でほどけていると転写しやすく、巻いているとアクセスしにくくなります。さらにエピジェネティクスとして、DNAメチル化やヒストン修飾などにより、DNA配列を変えずに遺伝子発現を長期的に調節するしくみがあります。遺伝子発現の調節は、同じ設計図から多様な細胞機能を生み出す鍵です。
突然変異の主な種類として、1つの塩基が別の塩基に置き換わる「置換」、塩基が追加される「挿入」、塩基が抜ける「欠失」、挿入・欠失によりコドンの読み枠がずれる「フレームシフト変異」があります。変化の主な原因は、複製エラー・紫外線(UV)・化学物質・放射線です。細胞にはDNAの傷を見つけて修復する酵素があり、ヌクレオチド除去修復(NER)などが働きます。突然変異は進化の材料になりますが、修復の失敗は病気の原因になります。
分子生物学の技術は生命の理解を深めるだけでなく、医療や産業も変えています。PCRは特定のDNA領域を増幅する技術で、実験室から現場まで幅広く使われます。シーケンシングはDNAの塩基配列を決定する技術で、次世代シーケンシング(NGS)により大量のDNA情報を短時間で分析できます。ゲル電気泳動はDNA断片を大きさによって分離します。そしてCRISPR遺伝子編集は、Cas9などをナイフとして特定の遺伝子を正確に切り取り・編集する技術です。応用分野は医療・診断・法医学・農業・バイオテクノロジー・基礎研究など多岐にわたります。
今回は分子生物学とDNAについてお伝えしました。5つの要点があります。DNAは遺伝情報を保存すること、遺伝子はRNAやタンパク質の設計情報を担うこと、複製・転写・翻訳が情報の流れをつくること、発現調節や突然変異が生命の多様性と変化を生むこと、そして分子生物学は医療・研究・産業を支えることです。DNAはレシピ本(情報の本体を保存)、RNAは作業メモ(情報を運び伝える)、タンパク質は働く人(細胞の中で仕事をする)と考えると分かりやすいでしょう。分子生物学は、生命のしくみを理解し、未来の医療と技術を切り開く土台です。