
中級1
現代物理学・宇宙科学
ブラックホールと事象の地平面
編集部
重力はなぜ光さえも逃がさないのでしょうか。ブラックホールの誕生から事象の地平面・特異点まで、脱出速度という核心的な概念を軸にやさしく解説します。「光速を超える脱出速度」という切り口で相対論的重力の本質が見えてきます。
重力は質量を持つ物体どうしが引き合う力で、重いほど引力は強く・距離が離れるほど弱くなります。地球の重力が私たちを地面につなぎとめており、惑星の公転や月の満ち欠けにも重力が深く関係しています。
光の速さは約30万km/秒です。天体から抜け出すには「脱出速度」が必要で、重力が強いほど脱出速度は大きくなります。もし脱出速度が光速を超えると光も外へ出られなくなり、これが「光さえ逃げられない」という状態です。地球の脱出速度は約11km/秒ですが、ブラックホールでは光速を超えます。
ふつうの星は内向きの重力と外向きの圧力(核融合によるエネルギー)がつり合っています。しかし燃料が尽きると外向きの圧力が弱まり、重い星ほど最後に急激な重力収縮を起こしやすくなります。大質量星の最期がブラックホール誕生につながります。
大質量星→超新星爆発→中心核の急激な崩壊→ブラックホール誕生という流れです。非常に重い星は寿命の終わりに爆発し、中心部が自分の重力で極端に縮みます。一定の半径(シュワルツシルト半径)より内側に縮むと光も逃げられなくなります。
ブラックホールの周囲には「事象の地平面」があります。ここを越えると光も物質も外へ戻れず、外から見ると境界の内側の情報は直接取り出せません。「光さえ逃げられない」という説明はこの境界を指しており、point of no return(引き返せない地点)とも呼ばれます。
理論上、ブラックホールの中心には「特異点」があると考えられており、そこでは密度や時空の曲がり方が極端になります。一般相対性理論では説明できる部分が多いですが、量子重力の理論はまだ完成しておらず完全には分かっていません。特異点は直接見えたわけではなく理論モデル上の概念です。
見えない天体は「周りの現象」から知ることができます。落ち込むガスが高温になって強い光やX線を出す降着円盤・見えない重い天体の周りを恒星が高速で回る様子・ブラックホール同士の合体で生じる重力波・電波望遠鏡網で周囲の影を捉えるブラックホール撮影という四つの方法が使われます。
ブラックホールは何でも吸い込むわけではありません。遠くにある物体まで無差別に吸い込むわけではなく、十分に離れていれば他の天体と同じように重力の影響を受けます。もし太陽と同じ質量のブラックホールに置き換わっても、地球の公転自体は大きく変わりません。危険なのは「近すぎる」場合に限られます。
今回は、光さえ逃げられない重力——ブラックホールについてお伝えしました。重力は質量によって生まれ、重力が極端に強いと脱出速度が光速を超えてブラックホールになります。境界は「事象の地平面」と呼ばれ、私たちは周囲の光・恒星の運動・重力波からブラックホールの存在を知ります。ブラックホールは重力・相対論・宇宙進化が交わる最前線の研究テーマです。