
中級5
素粒子物理学
ヒッグス粒子と質量の起源
編集部
素粒子物理学の標準模型は、20世紀後半に確立した「物質と力の基本地図」です。クォーク・レプトン各6種のフェルミオンと、電磁力・強い力・弱い力を媒介するボソン、さらに2012年に発見されたヒッグス粒子で構成されます。このスライドでは、各粒子の役割・3世代構造・質量の起源となるヒッグス機構をわかりやすく解説します。
標準模型は、多様な粒子を「役割ごと」に整理した物理学の基本地図です。物質を構成する粒子(フェルミオン)は、クォーク6種とレプトン6種からなります。力を伝える粒子(ゲージ粒子・ボソン)には、電磁力を媒介する光子、強い力を媒介するグルーオン、弱い力を媒介するW+・W-・Zボソンがあります(重力子は仮説段階です)。ヒッグス粒子(H)は場を通じて質量を与えます。押さえるポイントは、世代が3つあること、強い力がクォークをつなぐこと、ヒッグス粒子が質量を与えることの3点です。
クォークは、電荷(+2/3または-1/3)と色荷(赤・緑・青)を持ち、強い力で相互作用する粒子です。6種類(フレーバー)が3つの世代に分かれており、第1世代(アップ・ダウン)、第2世代(チャーム・ストレンジ)、第3世代(トップ・ボトム)です。陽子はuud(電荷+1)、中性子はudd(電荷0)という組み合わせで構成されています。クォークは単独では見つからず(閉じ込め)、裸のクォークを取り出そうとすると強い力により新しいクォーク対が生まれ、ハドロンにしか現れません。私たちの身近な原子核は、結局はクォークの組み合わせでできています。
レプトンはクォークとは別系統の物質粒子で、強い相互作用を受けない点が特徴です。電子とニュートリノが対になっており、3世代に分かれています。第1世代(電子・電子ニュートリノ)、第2世代(ミューオン・ミューニュートリノ)、第3世代(タウ・タウニュートリノ)です。電子は原子の構造素子であり、電子・ニュートリノは弱い力と電磁力に関わります。ニュートリノは弱い力のみ作用し、ニュートリノ振動の発見によって質量を持つことが判明しました。レプトンは、原子の世界から宇宙の進化まで広く関わる重要な粒子群です。
粒子どうしの相互作用は「力を伝える粒子(ゲージ粒子)」の交換によって伝えられます。4つの力があります。電磁気力(光子γ)は原子の軌道・化学反応に関わり、電荷を持つ全粒子に作用します。強い力(グルーオンg)はクォークを結びつけてハドロンをつくります。弱い力(W+・W-・Z0)はベータ崩壊などの放射線に関わり、質量が大きな粒子です。重力(重力子・仮説)は天体の運動に関わり、質量を持つ全粒子に作用しますが、まだ量子化されていません。標準模型は、重力を除く3つの力を量子的に記述することに成功しています。
ヒッグス機構とは、宇宙のあらゆる場所に存在するヒッグス場と粒子の相互作用によって質量が生まれる仕組みです。すべての粒子はヒッグス場の中を移動しており、ヒッグス場との相互作用が強いほど粒子は動きにくくなり、質量が大きくなります。光子はヒッグス場と相互作用しないため質量を持ちません。2012年、LHC(大型ハドロン衝突加速器)でヒッグス粒子(H)の存在が実験的に確認されました。ヒッグス機構は「なぜ粒子に質量があるのか」という問いへの中心的な答えです。
標準模型は対称性とゲージ理論によって支えられています。対称性とは、自然の法則にある「変換をしても変わらない性質」のことです。標準模型のゲージ対称性の構造はSU(3)×SU(2)×U(1)で表されます。SU(3)は色対称性によりグルーオン(8種)と強い力を記述し、SU(2)×U(1)は弱い力と電磁力を統一した電弱統一理論を形成します。標準模型の強みは、粒子の一覧だけでなく、それらを結ぶ「法則の形」まで与えている点にあります。
素粒子物理学は、加速器実験と精密測定によって検証されます。荷電粒子を光速近くまで加速し、高エネルギーで粒子同士を衝突させ、生まれた粒子の崩壊経路を精密測定します。代表的な施設として、周長27kmの大型ハドロン衝突型加速器LHCがあります。主な発見としては、W・Zボソンの発見(1983年)、トップクォークの発見(1995年)、ニュートリノ振動(1998年)、ヒッグス粒子(2012年)があります。素粒子物理学は「見えない粒子」を衝突実験の痕跡から読み解く学問でもあります。
標準模型は非常によく当たる理論ですが、宇宙のすべてを説明するわけではありません。成功した例として、電子・クォークなどの性質の精密な記述、電弱統一理論の確立・W/Zボソンの発見、ヒッグス粒子の発見、実験との高精度な一致があります。一方で、重力を含まないこと、ダークマターやダークエネルギーを説明できないこと、ニュートリノの質量の理解が不十分なこと、物質と反物質の非対称性の説明が不十分なことなど、まだ説明しきれないことも多くあります。標準模型は完成形ではなく、「その先の物理」を探す出発点でもあります。
今回は素粒子物理学と標準模型についてお伝えしました。物質はクォークとレプトンからできており、互いに作用するゲージ粒子(力の粒子)が存在し、ヒッグス機構が粒子に質量を与えています。標準模型は成功を収めていますが、宇宙すべてを説明することはできません。標準模型を超える「次の物理」を探すことがこれからの大きな課題です。標準模型は、宇宙の最小スケールを理解する最強の理論であると同時に、「次の物理」への入口でもあります。