重さと混同しやすい「質量」の基本。質量は、物体が動き方を変えにくい性質「慣性(かんせい)」を表す量です。押したり引いたりしても、加速しにくいほど質量が大きいといえます。ニュートンの運動の第2法則:F = ma(力・質量・加速度)。質量=加速しにくさの指標:物体の慣性を表す量、大きいほど動き方を変えにくい。重さ=重力による力:重さは重力の大きさによって変わる。月でも宇宙でも質量は同じ:どこにあっても物体そのものの質量は変わらない。ヒッグス機構が素粒子に質量を与える仕組みの一つとして知られており、私たちが観測する質量の多くは宇宙のヒッグス場との相互作用から生まれている。
ヒッグス粒子はどこに位置づけられるのか。クォーク(物質をつくる粒子):アップ(電荷+2/3)・ダウン(電荷-1/3)・チャーム・ストレンジなど第3世代まで存在。レプトン(物質の仲間):電子(電荷-1)・電子ニュートリノ(電荷0)・ミューオン・ミューニュートリノなど第3世代まで存在。力を伝える粒子(ゲージ粒子):光子γ(電磁力)・グルーオンg(強い力)・W±ボソン(弱い力)・Z0ボソン(弱い力)。ヒッグス粒子:すべての素粒子と相互作用し、一部の粒子に質量を与える(質量の起源)。物質はクォークとレプトンからできる。力はゲージ粒子が伝える。ヒッグス場との相互作用の強さが質量の大きさを決める。
見えない「場」が真空にも広がっている。ヒッグス場は、ヒッグス粒子(ヒッグスボソン)を生む「場」と考えられている。たとえ何もない「空っぽの空間(真空)」でも、ヒッグス場の値はゼロではない。ヒッグス場はそっぽう宇宙に広がり、粒子はこの場の中を進む。すべての素粒子はヒッグス場の中を動いており、粒子がどれだけヒッグス場に「引っかかるか」が質量の大きさを決める。
ヒッグス場との相互作用の強さで重さが出る。ヒッグス場と相互作用しない粒子は動きやすく質量ゼロ(水を泳ぐように軽い)。ヒッグス場と強く相互作用する粒子は動きにくく質量大(砂の中を歩くように重い)。粒子ごとの質量の違い:トップクォーク(t)は相互作用が非常に強く質量173 GeV。電子(e-)は相互作用が非常に弱く質量0.511 MeV。ニュートリノ(ν)はほぼ相互作用なしで質量はほぼゼロ。相互作用が強いほど重く、場との結びつきの差が多様な質量を生む。
一方でW/Zボソンはなぜ重いのか。光子(γ)は電磁気力の担い手だが、ヒッグス場と相互作用しないため質量をまったく持たず光速のまま進む。W/Zボソンはヒッグス場と相互作用し、ヒッグス場に引っかかることで大きな質量を獲得した。光子はヒッグス場と無関係に質量ゼロ。W/Zボソンはヒッグス場と強く作用して重くなり、力の届く距離が短くなる。質量ゼロの世界がなかったら光速や電磁力の範囲が変わる。
ヒッグス場のゆらぎとして現れる粒子。ふだんのヒッグス場は宇宙のあらゆる場所に広がり、ほぼ均一で一定。ヒッグス粒子はヒッグス場の一部が局所的にゆらいだとき、波のような粒子として現れる。ヒッグス粒子=場の量子的な揺れ動き:場の一部がゆらいで現れるとても不安定な粒子。量子の世界では「場」が基本で、粒子は「場の量子」として存在する。発見によって標準模型の実在性が確認された。
大型ハドロン衝突型加速器(LHC)がもたらした成果。2012年7月4日、CERN(欧州原子核研究機構)は大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使った実験でヒッグス粒子(ヒッグスボソン)の存在を確認し発表した。LHCは周長約27 kmの巨大円形加速器。歴史の流れ:1960年代—ヒッグス機構提唱、2008年—LHC稼働開始、2013年—ノーベル物理学賞。ATLASとCMSの2つの実験施設が互いに独立して確認。確認された質量は約125 GeV(ギガ電子ボルト)。
身の回りの物質の重さの多くは別の仕組みから生まれる。ヒッグス機構はクォークや電子などの素粒子に基礎的な質量を与える。しかし陽子・中性子などの質量の約99%は、クォーク3つが強い相互作用でまとまる際のグルーオンが飛び交うエネルギーに由来し、クォーク自体の質量は全体のわずか1%にすぎない。ヒッグスはクォークなどに基礎質量を与える。陽子・中性子の質量は主に相互作用エネルギー。「質量の起源」は一言で言えないほど複雑である。
質量の理解は、宇宙の基本法則への入口。①ヒッグス場は宇宙全体に広がる:見えない「場」が宇宙空間に存在している。②粒子とヒッグス場の相互作用が質量を生む:相互作用の強さが質量の大きさを決める。③ヒッグス粒子はその場の存在を示す:2012年の発見は標準模型の正しさの証明の一歩となった。④ただし物質の質量のすべてを単一のメカニズムで説明するわけではない。この先の疑問:暗黒物質、ニュートリノ質量、標準模型を超える未来。ヒッグス粒子の発見は終わりではなく始まり。