
初級2
古代ギリシャ哲学・同一性
テセウスの船
編集部
目覚めたとき、コインが表だった確率は1/2か1/3か——。実験のルールを整理しましょう。
実験のルールを整理しましょう。まず日曜日に公平なコインを1回投げます。表が出た場合、美女は月曜日に1回だけ起こされます。一方、裏が出た場合、月曜日と火曜日の2回起こされます。そして起こされるたびに記憶は消され、美女は自分では区別できません。問いはこうです——起こされたとき、コインが表だった確率はいくつでしょうか?
美女が目覚めた瞬間、彼女は「いま目覚めている」ことだけは分かります。しかし今日が月曜日か火曜日かは分かりません。また、以前にも起こされたかどうかも分かりません。この限られた情報だけで「コインが表だった確率」をどう考えるかが、この問題の核心です。
1/2派は、コインは公平なので事前確率は表=1/2、裏=1/2と考えます。また「目覚めること」自体は表でも裏でも必ず起こるため、目覚めた事実は新しい情報ではないと捉えます。したがって信念は更新せず、表の確率は1/2のままという立場です。これは「結果(コインの出目)を基準に考える立場」です。
1/3派は、区別できない「目覚めの状態」を数えます。表なら「表・月曜」の1回、裏なら「裏・月曜」「裏・火曜」の2回が可能な目覚めの状態です。3つの可能な状態のうち、表に対応するのは1つだけなので、確率は1/3となります。これは「観測された目覚めを基準に考える立場」です。
答えが割れる理由は「何を数えるか」の違いにあります。1/2派はコインの結果を等確率で見て、結果全体を等確率で評価します。一方1/3派は、目覚めの各機会(1回目・2回目・3回目)を等確率で扱い、「自分がどの機会にいるか」を問います。「結果の確率」と「いま自分がいる確率」は別物であり、サンプル空間の取り方によって結論が変わるのです。
ベイズ的に整理すると、問いの意味の違いが浮かび上がります。「コインの出目そのもの」を問うなら1/2と考えやすく、「無作為に選んだ目覚めの瞬間」を問うなら1/3と考えやすくなります。裏では目覚めの機会が2倍あることが1/3派の根拠として効いてきます。条件づける対象を先に明確にすること——サンプル空間を先に決めることが重要です。
1/3派の直感を「くじ」で掴んでみましょう。目覚めごとに「札」を1枚入れると考えます。表なら「表・月」の札が1枚、裏なら「裏・月」「裏・火」の札が2枚入ります。箱の中には合計3枚の札が入り、無作為に1枚引いたとき、表の札は3枚中1枚です。この見方が1/3派の直感的な根拠です。
眠れる美女問題は単なるパズルではなく、広い分野に関わります。まず自己位置づけ確率(self-locating belief)の代表例として知られています。また観測者選択効果や人間原理の議論にもつながります。さらに意思決定理論・哲学・AIの信念更新にも関係します。「何を1サンプルとみなすか」という問いの重要性を教えてくれる問題です。
今回は眠れる美女問題についてお伝えしました。事前のコイン結果を重視する立場では表の確率は「1/2」となり、目覚めの瞬間を無作為抽出する立場では「1/3」となります。対立点はサンプル空間と情報更新のしかたにあります。結論以上に「何を条件づけているか」を明確にすることが重要です。眠れる美女問題は、確率の直感と観測者の視点を鍛える好例です。