
初級4
生物学・細胞生物学
細胞は小さな工場である
編集部
私たちの細胞の「発電所」ミトコンドリアは、もともと別の細菌でした。エンドシンビオシス(細胞内共生)説と、形・DNA・遺伝子解析が示す証拠をもとに、生命史を大きく変えたこの共生の起源と進化の謎を解説します。このスライドでは、ミトコンドリアとは何か・舞台は太古の地球・エンドシンビオシス説・なぜ共生は有利だったのかなど、10枚のスライドでわかりやすく解説していきます。
ミトコンドリアは、細胞の中でエネルギーを生み出す小器官です。細胞呼吸によってATPをつくり、栄養と酸素を用いてエネルギーを取り出します。真核生物の細胞に存在し、ATP産生の中心を担います。二重膜(外膜・内膜・クリステ・マトリックス)をもち、独自のDNAをもつ点も大きな特徴です。「細胞の発電所」と呼ばれることが多い存在です。
ミトコンドリアの起源を理解するためには、太古の地球環境を知る必要があります。初期の地球では大気中の酸素がほとんどなく、生命は嫌気性環境で生きていました。やがてシアノバクテリアなどの光合成生物が登場し酸素をつくり始め、大酸化イベントによって酸素が大量に増加しました。そのなかで酸素を使って効率よくエネルギーを得る好気性細菌の系統が生まれ、共生への道が開かれていきました。
エンドシンビオシス説とは、取り込まれた細菌がやがて細胞小器官になったという考え方です。宿主細胞が好気性細菌を取り込み、消化せずに共生することでミトコンドリアへと進化したとされています。「endo」は「内側」、「symbiosis」は「共生」を意味します。この共生によって宿主はより多くのATPを得られるようになり、細菌は安全な住みかと栄養を得るという関係が生まれました。長い時間をかけて役割分担が進み、現在のミトコンドリアへと進化しました。
宿主と細菌にとって「Win-Win」の関係が成立したことが共生を有利にしました。宿主細胞は効率よくATPを得られ、酸素を利用でき、大型化・複雑化に有利になりました。一方、細菌側は安定した住みかと栄養を得やすく、外敵や環境変化から守られやすくなりました。こうして共生が固定化され、互いが独立生活できない関係へと進化していきました。
ミトコンドリアが細菌に由来することを示す証拠として、形とふるまいがあります。ミトコンドリアは二重膜(内膜・外膜)をもち、独自の環状DNAをもっています。また細胞分裂のように自ら増え、細菌に似た70Sリボソームをもっています。こうした見た目やふるまいが、「かつて細菌だった」ことを示しています。
DNA解析から、ミトコンドリアの祖先はαプロテオバクテリアに近いことが分かっています。ミトコンドリアDNAは細菌のDNAに似た特徴をもち、多くの遺伝子配列がαプロテオバクテリア系統に近いことが確認されています。さらにタンパク質合成の仕組みにも細菌との共通点があります。分子系統解析は、起源を探る強力な手がかりとなっています。
共生が始まった後、細菌からミトコンドリアへの進化が進みました。初期の共生体(αプロテオバクテリア)は不要な遺伝子が減り、一部の遺伝子は核ゲノムへ移動しました。多くのミトコンドリアたんぱく質は細胞質で作られ後から運ばれるようになり、単独では生きにくい「完全な共生体」へと変化していきました。共生は「共同生活」から「機能統合」へと発展しました。
ミトコンドリアの登場によって、高効率なエネルギー獲得が複雑な生命を後押しすることになりました。ATP産生能力が大きく向上し、細胞の大型化と内部構造の複雑化を支えました。また多細胞生物の誕生と進化を促進し、今日の真核生物の多様性につながりました。ミトコンドリアの登場は、生命史の大きな転換点といえます。
今回はミトコンドリアの起源についてお伝えしました。ミトコンドリアは「取り込まれた細菌」が進化した姿で、起源はαプロテオバクテリアに近い細菌です。宿主細胞との共生から生まれ、二重膜や独自DNAなどに細菌の名残が残っています。遺伝子移動と機能統合が進んだ結果、真核生物の進化を大きく変えることになりました。ミトコンドリアの起源を知ることは、複雑な生命の始まりを知ることでもあります。