
中級19
現代心理・哲学
なぜ現代人はこんなに不安なのか
編集部
ふ化したヒナが最初に見た対象を親として追い続ける——コンラート・ローレンツが発見した「刷り込み」は、生後早期の経験が行動を決定づけるという衝撃的な事実を示しました。本能と学習の中間に位置するこの現象は、臨界期という概念とともに発達心理学・愛着理論に多大な影響を与え、「生まれつき」対「育ち」をめぐる議論の出発点となっています。
ふ化したヒナが最初に見た対象を親として追い続ける——コンラート・ローレンツが発見した「刷り込み」は、生後早期の経験が行動を決定づけるという衝撃的な事実を示しました。
コンラート・ローレンツはオーストリアの動物行動学者で、1903年に生まれ1989年に没しました。動物の本能行動を研究し、刷り込みの発見で世界的に広く知られています。1973年にはノーベル生理学・医学賞を共同受賞しており、動物の行動の「なぜ?」を一生かけて探究した科学者です。
刷り込みとは、ふ化したヒナが最初に見た対象を親として認識し、追いかける現象です。生後早期に起こる学習で、特定の対象に強く結びつき、短時間で成立しやすく、後の行動に大きく影響します。純粋な本能でも通常の学習でもなく、学習と本能の中間のような現象として位置づけられています。
ローレンツはふ化直後の環境と最初に接する対象を操作することで、追従行動の違いを調べました。一方の群はふ化直後に母ガンを見て母ガンを追従対象として学習し、もう一方の群はふ化直後に人(ローレンツ)を見て人を追従対象として学習します。まずふ化直後の環境を分け、次に最初に接する対象を変え、行動の違いを観察して追従行動を比較するという手順で進められました。
実験は4つのステップで行われました。まず卵がかえり、次にヒナが最初の対象を見ます。そしてその対象の後をついて歩き、最後に追従行動を観察・記録します。この実験によって、最初の出会いがその後の追従対象を左右することが明らかになりました。
実験の結果、母親を見たヒナは母親の後をついていき、ローレンツを見たヒナはローレンツの後をついていきました。人間に対しても刷り込みが成立し、初期経験の重要性が示されました。ヒナは生まれついた「種」の本能よりも、「最初の経験」に強く影響されることが分かったのです。
刷り込みが強く起こるのは、ふ化後まもない短い期間だけです。刷り込みはいつでも起こるわけではなく、生後まもない短い時期が特に重要です。この時期を過ぎると成立しにくくなり、初期経験が長く残ります。このような限られた成立時期を「臨界期」と呼びます。
ローレンツの実験は、動物行動学の発展に大きく貢献しました。先天的行動と学習の関係を示し、発達初期の経験の大切さを明らかにしました。また人間の愛着研究にも影響を与え、「生まれつき」と「経験」の両方が行動をつくることを考える手がかりになりました。
この実験には注意点と限界があります。まずすべての鳥で同じように起こるわけではなく、種によって反応や時期が異なります。また実験環境は自然そのものではなく、現代では動物福祉への配慮も重要です。有名な実験ですが、結果の一般化には慎重さが必要です。
ローレンツの刷り込み実験から学ぶことは5つあります。まず刷り込みは生後早期の重要な学習であること、またヒナは最初に見た対象を追従しやすいこと、さらにローレンツは人への刷り込みを示したこと、成立には臨界期があること、そしてこの研究は発達と行動理解に大きな影響を与えたことです。初期経験は、その後の行動の土台になります。今回はローレンツの刷り込み実験についてお伝えしました。