
中級2
17世紀イギリス経験論
人間知性論
ジョン・ロック
自然権・同意・抵抗権という三つの柱で近代立憲政治の基礎を築いたロックの主著です。政府の正当性は人民の同意にあり、権力を侵害する政府に抵抗する権利があるという思想は、アメリカ独立宣言・フランス革命・現代民主主義に決定的な影響を与えました。このスライドでは、『統治二論』が書かれた時代背景・自然状態と人間の自然権・労働が所有を生むという発想・政府の正当性は人民の同意から生まれるなど、10枚のスライドでわかりやすく解説していきます。
17世紀のイングランドでは、王と議会の支配争いや宗教的対立による政治的混乱が続きました。ロバート・フィルマーの絶対王権論に対する反論として書かれた本書は、1688年の名誉革命と立憲政治への転換という時代背景の中で生まれました。清教徒革命(1642〜1649年)から王政復古(1660年)、そして名誉革命(1688年)と続く激動の時代の中で、ロックは絶対的権力を否定し人民の同意に基づく政治を理論化しました。
国家が存在する前の状態を、ロックは「自然状態」と呼びます。自然状態は自由で平等であり、理性によって守られる自然法が支配しています。人間は生まれながらに「自然権」をもち、他者から奪われてはなりません。具体的には、自らの生命を守る権利(生命)、自らの行動を決める権利(自由)、そして労働で得た財産を利用する権利(財産)の三つがその中核をなします。
自然はすべての人に共通に与えられていますが、人が自然物に自分の労働を加えたとき、そのものは自分のものとなります。これがロックの財産権の根拠であり、私有財産を生み出す動機です。ただし「他の人のために十分に、そして同じくらい良いものが残されていること」という有名な留保(プロヴィゾ)が条件として課されます。
人々は自然状態の不確かさや不安定な状況を解決するために、同意に基づく契約によって政治社会(国)を形成します。政府はこの同意に基づいて設立され、その権力は人民の代表として行使されなければなりません。重要な決定は多数の人の決定に基づくという多数決の原理も取り入れられており、人民の同意に基づく政府こそが正当であり、その目的は人民の自由と財産を守ることです。
政府は自然権(生命・自由・財産)を守るために存在し、その権力は具体的な制約内に制限されます。法律はすべての人に平等に適用され、特定の人だけに都合よくなってはなりません。立法権と執行権はそれぞれの役割を持ちますが、いずれも信託による制限を受けており、信託に反する権力は正当に制限・変更されます。
ロックは、政府が権力を悪用し恣意的な行為をするならば、人民はそれを改め正当な統治を作ることができると論じました。自然権を侵害されると信託が破壊され、人民は政府を変える権利を持つのです。ロックが主張したのは反乱を煽ることではなく、権力は人民のためにあり、信託を裏切る政府に人民は従う義務がないということです。
ホッブズとロックを四つの観点で比較してみます。人間観について、ホッブズは利己的で争う存在と見るのに対し、ロックは理性的で道徳的な存在と捉えます。自然状態についても、ホッブズは「万人の万人に対する闘争」とするのに対し、ロックは自由で平等だが危険になりうるとします。政府の目的は、ホッブズが平和と安全の確保のために強力な主権者にすべてを委ねるとするのに対し、ロックは自然権の保護とします。そして抵抗権について、ホッブズはこれを否定し主権者への服従を求めますが、ロックは政府が権利を侵害する場合に抵抗権を認めます。ホッブズは「強い国家による秩序」を、ロックは「権利の保護と自由」を重視したのです。
ロックの思想は、リベラリズム・立憲主義・民主主義に大きな影響を与えました。「自然権」「同意に基づく統治」という考え方は近代政治制度の基礎となり、アメリカ独立宣言との関連でも広く知られています。リベラリズムの発展、立憲主義の広がり、民主主義の萌芽を経て、現代の人権や国際社会においても、ロックの思想は自由で公正な社会をつくるための普遍的な指針として私たちの社会を支え続けています。
今回はロック『統治二論』についてお伝えしました。人間は生まれながらに生命・自由・財産の権利をもつという自然権の思想、政府の権力は人民の同意に基づくという同意の原則、政府の権力は法的に制限されなければならないという限定政府の考え方、そして政府が人民の権利を侵害するなら抵抗し政府を変える権利があるという抵抗権の理論——これら四つがロック思想の核心です。「権力は人民のためにある」という原理を理論化したロックの業績は、現代民主主義の礎となっています。