
中級2
安全保障・核戦略
核抑止論——MADと冷戦の安全保障論理
編集部
「戦争は政治の延長である」と喝破したクラウゼヴィッツの理論を軸に、ナポレオン戦争から核抑止・湾岸戦争・現代のドローン戦まで、戦争の形がどう変化してきたかを追います。技術と戦略が変わっても変わらない戦争の本質を、10枚のスライドで解説していきます。
フランス革命後、国民国家と徴兵制が拡大し、戦争の規模が一気に大きくなりました。ナポレオン戦争では機動力・集中・決戦が重視され、政治目的と軍事行動が深く結びついて戦争は国家意思の表現となりました。クラウゼヴィッツはこの時代経験をもとに戦争を理論化しており、フランス革命から国民軍・ナポレオン戦争へと続く流れが近代戦の基盤を確立しました。
クラウゼヴィッツは戦争を理解するための3つの視点を示しました。まず戦争は独立した目的ではなく、国家の政治目的を達成するための手段であるということ。また戦場では情報が不完全で現実は計画通りにいかない「戦場の霧」と「摩擦」が常につきまとうということ。そして民衆の感情・軍の理性と創意・政府の理性の三位一体が戦争を動かすということです。戦争は単なる武力衝突ではなく、政治・感情・偶然が絡む複雑な現象なのです。
19世紀後半から第一次世界大戦にかけて、鉄道・電信・工場生産が兵器と動員を飛躍的に強化し、戦争は社会全体を巻き込むものへと変わりました。兵器の量産化により戦争は長期化・大規模化し、第一次世界大戦では消耗戦が典型化しました。戦場だけでなく経済・労働・食糧など銃後の国家動員力が問われるようになり、戦争は軍隊同士の対決から国家総動員のシステムへと変化したのです。
戦車・航空機・無線通信の発達で機動戦略が高度化し、ドイツの電撃戦は突破・包囲・迅速な展開を重視しました。海・陸・空の統合作戦が戦争の勝敗を左右するようになり、民間都市への空爆など非戦闘員への影響も拡大しました。20世紀半ばの戦争は「量」に加えて「速度と連携」が決定的な要素となりました。
核兵器の登場で大国間の全面戦争は相互破壊の危険を孕むようになり、抑止(deterrence)とMAD(相互確証破壊)が戦略の中心となりました。米ソは直接衝突を避けながら朝鮮戦争・ベトナム戦争など各地で代理戦争を展開しました。軍事力だけでなく同盟・イデオロギー・情報戦も重要となり、冷戦期の戦争観は「勝つ」だけでなく「起こさない」ことにも重点が置かれていました。
衛星・GPS・センサー・通信ネットワークの進歩で戦場把握が高度化し、湾岸戦争では精密誘導兵器が注目されました。ISR(情報・監視・偵察)が戦争遂行の中核となり、ネットワーク中心の戦争(network-centric warfare)が各国の概念に導入されました。戦争の優位は火力だけでなく、「情報を先に握る力」によって左右されるようになったのです。
UAV(無人航空機)は偵察・監視・攻撃を一台で行えるようにし、操縦者が前線にいなくても作戦を継続できるようになりました。比較的低コストで導入でき、小国や非国家主体にも広がっています。常時監視と即応攻撃により戦場の時間感覚が変化し、ドローンは戦争を「遠隔化・持続化・分散化」する重要な技術となりました。
ドローンの普及は費用対効果の逆転をもたらし、小部隊の偵察・攻撃・補給能力が向上しました。一方で遠隔攻撃による目標識別の問題や民間被害のリスク、自律兵器・AIのコントロール問題など新たな課題も生じています。また法的・道義的な責任の所在が不明確になるなど、現行の国際法がドローン・AI兵器への対応が追いついていないという倫理的な問いも突きつけられています。
技術・規模・主体・意思決定の速度など、戦争の「形」は馬から鉄道・戦車・核・ドローンへと大きく変わってきました。しかし戦争は政治目的に従属するというクラウゼヴィッツの原則、不確実性・摩擦・霧、相手の意志をくじくという本質は変わりません。今回は戦争の変遷についてお伝えしました。クラウゼヴィッツの問い——「戦争の本質とは何か」——は現代のドローン戦にも有効です。