
上級2
思考実験・量子力学
EPRパラドックス
編集部
孤立した箱の中で光を放つと箱はわずかに動く——この単純な設定から、アインシュタインは「光もエネルギーに等価な質量をもつ」という驚くべき洞察を導きました。
思考実験の設定を確認しましょう。長さLの箱が、摩擦のないレールの上に置かれています。外力は一切働かない孤立した系です。箱は自由に動くことができ、光は箱の中を左から右へ進みます。この孤立した系の中で光を放つと、箱にはどのような変化が生じるでしょうか。
光はエネルギーと運動量をもっています。そのため、光を右向きに放つと、その反作用として箱はわずかに左へ動き始めます。光が右端に届くまでのあいだ、この後退が続きます。これは銃が発射時に反動で後ろへ動くのと同じ原理です。
光が右壁に到達して吸収されると、箱の運動は止まります。しかし、光を放ってから吸収されるまでのあいだ、箱は少し左へずれていました。最終的に箱全体が左へ移動した状態で静止しています。外力が一切働いていないにもかかわらず、箱は左へ動いてしまいました。
ここでパラドックスが生じます。孤立した系では、外力がかからない限り重心は動きません。しかし箱だけを見ると、左へ移動しています。光が箱の中を動いていたあいだ、何かが右へ移動して箱の移動を補償しなければ、重心保存則に反することになります。光にも「質量に相当するもの」が必要なのではないかという問いが生まれます。
アインシュタインの洞察は、「光はエネルギーEをもち、そのエネルギーは質量m = E/c²に対応する」というものです。光がエネルギーをもつなら等価質量をもち、慣性を示します。この等価質量を考えることで、重心保存則と矛盾しなくなります。この発想はエネルギーと質量の等価性E = mc²の考え方へとつながります。
重心が不変であるための条件は、「箱の質量M × 箱の移動量 = 光の等価質量E/c² × 光の移動量」が成り立つことです。光が右へ進む間、箱は左へ動きますが、光の等価質量が箱の移動をちょうど打ち消します。光が運ぶエネルギーも重心計算に含めることで、系全体の重心は変わらないことが示されます。
この思考実験は3つの重要なことを示しました。まず質量とエネルギーは等価であり、エネルギーは質量と同じ実在する量としてE = mc²で結びついています。また光も運動量をもち、光の運動量はp = E/cで表されます。さらに保存則という基本原理から、当時想定されていなかった「質量の可変性」にたどり着いた点で、科学史上重要な洞察のひとつとなっています。
この思考実験が導いたE = mc²は、現代物理学のさまざまな分野で実際に役立っています。核エネルギーでは、核反応において質量の一部が大きなエネルギーに変換されます。太陽や恒星では核融合によってわずかな質量がエネルギーに変わって輝いています。素粒子物理では粒子と反粒子の生成・消滅やヒッグス機構による質量の起源にも深く関わり、時空の曲がりやブラックホールなどの理解にもつながります。
今回はアインシュタインの箱についてお伝えしました。光はエネルギーと運動量を運び、孤立した箱の中で光を放つと反作用で箱がわずかに動きます。重心保存を保つにはエネルギーの質量換算が必要であり、この発想がE = mc²の理解につながります。アインシュタインの箱は、質量とエネルギーの等価性を日常的な設定から導く名思考実験です。