19世紀ヨーロッパでは産業化・都市化が進展し、伝統的な共同体の結びつきが弱まりました。そこで新しい社会のまとまりの原理が必要になりました。以前の農村的伝統社会では家族・村・宗教による強い結びつきがあり、統合の原理は「機械的連帯」(共通の信念・価値観による結びつき)でした。一方、産業化・都市社会では多様な職業と専門化が進んで、統合の原理は「有機的連帯」(相互依存・機能の補完による結びつき)へと変化しました。デュルケームの問いは「近代社会は何によって統合されるのか」です。
分業とは、社会の中で仕事や役割が細かく分かれることです。各人が専門化し、相互に依存するようになり、分業は経済的効率だけでなく社会的結合を生みます。教師・医師・エンジニア・農家・配送員など、それぞれの仕事は独立しているようでいて、他の仕事によって成り立っています。分業が進むほど私たちは互いに必要とし合う関係(社会的結合)が強くなり、分業は専門化と相互依存の組み合わせとして理解できます。
機械的連帯とは、伝統社会に多い連帯の形です。人々が似た生活・価値観・仕事を共有し、共通意識が強く、同質性が社会をまとめます。小さな伝統的コミュニティでは、共通の信仰・宗教、共通の習慣・祭り、共通の生活様式・仕事が共有されています。共通意識(集合的意識)が強く社会の秩序と結束を支え、同質性と強い共通意識によって社会が一体となっています。キーワードは「同質性・共通意識」です。
有機的連帯とは、近代社会に多い連帯の形です。人々は異なる役割を担い専門化しており、違いがあるからこそ相互依存が生まれます。医師・教師・技術者・農家・看護師・販売員・物流担当・事務職など、それぞれの役割は異なりますが互いに必要であり、支え合って社会という有機体が成り立っています。キーワードは「分化・専門化・相互依存」です。
機械的連帯では「抑圧法」が中心で、有機的連帯では「回復的法」が中心です。伝統的社会(機械的連帯)では抑圧法(刑罰法)が中心で、違反を罰し社会の秩序を守ることが重視されます。一方、現代社会(有機的連帯)では回復的法(復原法)が中心で、損害を回復し関係を元に戻すことが重視されます。法の性格を見ることで、社会がどのような連帯の形で成り立っているかが分かります。
アノミーとは規範の弱まりを指します。急激な社会変化でルールや価値観が不安定になり、分業が進んでも調整がうまくいかないと混乱が生じます。社会統合には規範と調整の仕組みが必要です。現代社会のネットワークでは、調整の失敗・役割の断絶・つながりの消失などが起きると、アノミー(規範の弱まり)が生じます。分業は自動的に秩序を生むわけではありません。
デュルケームは分業の望ましくない形として「異常形態」を挙げます。強制的分業とは能力より身分や権力で役割が決まる形で、能力や適性が無視され、不平等と抑圧が生じ、社会の統合を阻害します。アノミー的分業とは役割間の調整や規範が不足する形で、共通の基準やルールがなく、混乱や衝突が生じ、社会の安定を損ないます。本来の分業は公正で調和的であるべきで、正常な分業には公正さと協調が必要です。
現代社会への応用として、企業・病院・行政などは高度な分業で成り立っています。専門化は生産性を高める一方、連帯の失敗も起こりうるため、多様性の中で協力する仕組みが必要です。IT・製造・農業・行政・教育・医療など多様な分野が相互依存して社会の安定と発展を支えています。分業を社会の安定につなげるには、信頼・コミュニケーション・ルール・教育が分業を円滑にし、社会の安定を支えます。
デュルケームの「社会分業論」は4つのポイントでまとめられます。まず分業は近代社会の中心原理です。また社会のまとまりは「有機的連帯」によって支えられます。さらに法や規範は社会統合を映し出します。そして公正で調和的な分業が健全な社会をつくります。分業→相互依存→連帯→社会統合という流れが、デュルケームが描いた近代社会の秩序の仕組みです。今回はデュルケームの「社会分業論」についてお伝えしました。