
初級2
認知科学・脳科学
ワーキングメモリとは何か
編集部
脳の中の記憶の住所を探ります。記憶は1か所ではなく、種類ごとに異なる脳回路で支えられています。記憶にはエピソード記憶・意味記憶・手続き記憶・ワーキングメモリなどの種類があり、保存には海馬・大脳皮質・扁桃体・小脳など複数の脳部位が関わっています。海馬が記憶の入口となり、大脳皮質が長期保存に重要な役割を果たします。
記憶にはいくつかの種類があります。エピソード記憶は出来事や体験の記憶で、意味記憶は言葉・事実・知識の記憶です。手続き記憶は自転車や楽器など体で覚える記憶であり、ワーキングメモリは一時的に保持して考えるための記憶です。記憶の種類が違えば、重要な脳部位も変わります。
海馬は見る・聞く・経験するといった感覚情報を結びつけ、新しい記憶を作る中心的な役割を担っています。出来事の時間・場所・文脈を結びつけており、損傷すると新しい記憶を作りにくくなります。古い記憶の多くは大脳皮質に残るため、海馬は長期保管庫というより受付・中継所に近い存在です。
知識や経験は大脳皮質の広い皮質ネットワークに分散して保存されています。視覚野(後頭葉)・聴覚野(側頭葉)・側頭連合野・頭頂連合野などがそれぞれ関わっています。長期記憶は1つの棚ではなく、分散型ネットワークとして保存されています。
怖さ・喜び・驚きは記憶の残りやすさを左右します。感情が強い体験ほど強く記憶に残るのは、扁桃体が記憶の強化に関与しているためです。ストレスホルモンが記憶固定を促進し、何を覚えるかだけでなくどれだけ強く残るかにも扁桃体が関わっています。
何度も練習することで体に自然につく技術は、繰り返しによって動作が自動化されていきます。小脳はタイミング調整と誤差修正に関わり、大脳基底核は習慣化やスムーズな動作に関わっています。睡眠中にも記憶の再活性化と整理のプロセスが起きており、体で覚える記憶には小脳と大脳基底核が重要な役割を果たしています。
ワーキングメモリは今この瞬間の作業台です。会話・計算・計画などを行うとき、前頭前野は必要な情報を短時間だけ保持して操作しています。数字や言葉を一時的に覚えておき、情報を保持しながら更新・比較することができます。また注意力や判断力とも深く関わっており、ワーキングメモリは長期保存ではなく今使うための記憶です。
睡眠中、海馬から大脳皮質へ記憶が再生されて定着します。その日の記憶の再活性化と整理のプロセスが睡眠中に行われており、重要な情報ほど長期記憶として定着しやすくなります。睡眠不足は記憶効率を低下させ想起力を下げるため、よく眠ることは脳の保存作業を助けます。
エングラムは神経細胞のつながりのパターンとして残ります。記憶の正体は特定の一点ではなく、脳内ネットワークに刻まれた活動パターンと考えられています。1つの思い出でも複数の脳領域に分散しており、手がかりがあるとネットワーク全体が呼び戻されます。また思い出した後に記憶が書き換わることもあります。
今回は、記憶が脳のどこに保存されるのかについてお伝えしました。海馬は新しい記憶の入口として機能し、大脳皮質が長期記憶の主保管所となっています。扁桃体は感情と記憶を強化し、小脳・大脳基底核は技能や習慣を支えます。前頭前野は今使うための記憶を一時保持しています。記憶は1か所の倉庫ではなく、脳の各領域が連携して支える分散型システムです。