
中級6
意思決定・経済学
ゲーム理論
編集部
囚人のジレンマ実験は、個人合理的な選択が集団にとって最悪の結果を招くことを示す、ゲーム理論の代表例です。しっぺ返し戦略(Tit for Tat)や繰り返しゲームの実験を通じて、人がいつ協力しいつ裏切るかが明らかになりました。このスライドでは、実験の設定・利得表・なぜジレンマなのか・実験の行われ方など、10枚でわかりやすく解説していきます。
2人の容疑者が逮捕され、別々の部屋に隔離されています。互いに会話することはできず、相手の選択も分かりません。それぞれが同時に意思決定を行います。選択肢は「協力(黙秘)」か「裏切り(自白)」の2つです。自分の目的は、自分の刑期をできるだけ軽くすることです。このシンプルな設定が、協力と裏切りの葛藤を鮮明に映し出します。
利得表は2×2のマトリクスで示されます。両者が協力(黙秘)すれば互いに1年の刑期です。自分が裏切り相手が協力すれば、自分は釈放で相手は3年です。自分が協力して相手が裏切れば、自分は3年で相手が釈放です。両者が裏切れば互いに2年となります。両者にとっては協力が望ましいのですが、個人には常に裏切る誘惑があります。これが囚人のジレンマの核心です。(数字は説明用の典型例です)
自分の利益だけを考えると、どの状況でも「裏切る」方が得に見えてしまいます。相手が協力するなら裏切ると自分は釈放になり、相手が裏切るなら自分も裏切れば2年で済みます。つまりどちらの場合でも「裏切り」が個人にとって有利に見えるのです。しかし2人とも裏切ると全体としては悪い結果になり、互いに懲役2年を受けることになります。個人合理性が全体不合理を生んでしまう——これが囚人のジレンマの核心です。
実験では参加者を2人1組にし、互いに話せない状態で協力か裏切りを同時に選ばせます。結果に応じてポイントや現金が支払われます。実験には一回限りのゲームと繰り返しゲームの2つのタイプがあります。一回限りでは各ペアが一度だけ対戦し、繰り返しゲームでは同じ相手と何回も対戦します。匿名性が高いほど裏切りが増えやすく、報酬の大きさやルール設計が協力を促すこともあります。
一回限りのゲームでは、裏切りが選ばれやすい傾向があります。相手がどう行動するか分からないため信じにくく、協力したのに裏切られると損をするという不安もあります。また目先の得が魅力的に映り、今すぐ自分の得になる選択を選びやすくなります。一度きりの関係では将来のつながりがないため、協力が崩れやすくなるのです。
繰り返しのゲームで有効とされるのが「しっぺ返し(Tit for Tat)」戦略です。まず最初は協力し、相手が協力したら次も協力、相手が裏切ったら次は対抗するというシンプルなルールです。繰り返しの関係では将来の協力が利益につながり、協力的な評判が得になります。裏切れば信頼や協力を失い将来の得を逃すため、未来があるほど人は協力しやすくなります。繰り返しの関係と評判が、協力を生み、より良い結果をもたらします。
協力する理由としては、相手を信じることで良い結果が生まれるという信頼感、公平・公正であることが関係を安定させるという公平感、将来の大きな利益のために今は協力するという長期的視点、そして相互協力への期待が挙げられます。一方、裏切る理由としては、今すぐ手に入る目先の利益、相手を信じられないという不信感、自分だけが損をしたくないという心理があります。人の行動は性格だけでなく、状況や制度設計にも左右されます。
個人や組織が合理的に行動しても、全体にとって望ましくない状況になる例は身の回りに多くあります。企業の価格競争ではシェアのために値下げを続けると利益が減り品質も落ちます。環境問題や気候変動では自国の経済を優先しすぎると地球規模のリスクが高まります。軍拡競争では相手より強い軍備を持とうとするあまりコストや緊張だけが増えます。職場でも全員が少なく働こうとすると誰も成果を上げられなくなります。
今回は囚人のジレンマ実験についてお伝えしました。それぞれが自分にとって最善を選ぶと、全体としては望ましくない結果になることがあります。一回限りの関係では裏切りが起こりやすく、繰り返しの関係・信頼の積み重ね・ルールや仕組みが協力を安定して生み出します。この考え方は環境問題、公共財、組織運営、価格競争などにも応用できます。人は「仕組み」しだいで協力を増やせるのです。