
初級42
中世英国史・ヴァイキング時代
アルフレッド大王
編集部
北欧神話は古代スカンジナビアの人々の信仰から派生し発展した神話体系で、アイスランドの「詩的エッダ」「散文エッダ」などの文献に記録されて現代に伝わっています。スカンジナビアを中心に、アイスランドや周辺の北大西洋地域、ヴァイキングの活動域を舞台とします。運命(宿命)を深く感じる世界観、勇敢な英雄の精神、創性豊かな多数の神々や巨人の存在、そしてラグナロク(終末)に向かう壮大な物語が特徴です。
北欧神話の宇宙は世界樹ユグドラシルを中心に九つの世界で構成されています。神々の世界アースガルズ、人間の世界ミズガルズ、ヴァン神族の世界ヴァナヘイム、巨人族の世界ヨトゥンヘイム、光のエルフの世界アルフヘイム、ドワーフの世界ニザヴェッリル、霧と氷の世界ニフルヘイム、炎の世界ムスペルヘイム、死者の世界ヘルヘイムが存在します。アースガルズとミズガルズは虹の橋ビフレストで結ばれており、宇宙全体がつながり支え合う構造になっています。
北欧神話を代表する神々を紹介します。主神オーディンは知恵・戦・詩を司り、片目を代償に知識を得てルーン文字を習得しました。雷神トールはミョルニルという鎚で人々を守り巨人と戦いました。変身と欺きの神ロキは策略で秩序を乱しバルドルの死に関与しました。愛・豊穣・魔術の女神フレイヤ、家族・予知のフリッグ、勇気と契約のテュール、光と清らかさのバルドル、虹の橋を見張るヘイムダルなど個性豊かな神々が登場します。
北欧神話には神々以外にも多様な存在が登場します。神々と対立しつつ世界形成にも関わる巨人(ヨトゥン)、鍛冶と工芸に優れ神々の宝物を作るドワーフ、光や自然と結びつくエルフ、戦死者を選びヴァルハラへ導くヴァルキュリャ、運命を紡ぐ3人のノルンがいます。また神々を脅かす怪物として、巨大な狼フェンリル、世界蛇ヨルムンガンド、死者の世界を支配するヘルが登場します。これらの存在が神々と関わり合いながら世界の秩序と混乱を生み出しています。
北欧神話の創世は形も動きもない巨大な空隙ギンヌンガガプから始まります。北の霧と氷の国ニフルヘイムと南の炎の国ムスペルヘイムの炎が出会い混ざり合うと、最初の巨人ユミルと神聖な牝牛アウズンブラが生まれました。神々オーディン・ヴィリ・ヴェーがユミルを倒し、その身体から大地・海・川・山・天を創り上げました。さらに浜辺に流着いた木から最初の人間アスク(男)とエンブラ(女)が生み出されました。
北欧神話には印象的な神器と象徴的なエピソードが数多くあります。トールの鎚ミョルニルは雷と守護の象徴で投げれば必ず戻り、オーディンの槍グングニルは必ず命中する権威の象徴です。増える黄金の腕輪ドラウプニルは豊かさを象徴し、虹の橋ビフレストは神々と人間の世界をつなぎます。バルドルの死はロキの策略によって引き起こされ、ラグナロクへの伏線となる重要な神話です。
北欧神話では、人は死後に死因や運命によって異なる世界へ向かいます。勇敢に戦って死んだ者は栄誉あるヴァルハラへ、フレイヤに縁ある者はフォールクヴァングへ、病や老いなどで死んだ者はヘルヘイムへ向かいます。三人のノルンが運命を定め、神々や人間にも影響を与えます。運命は避けがたい部分もありますが、知恵・誠実さなどによりその人の最終的な在り方が人としての価値を決めると考えられています。
ラグナロク(神々の黄昏)は北欧神話における終末の戦いです。長く厳しいフィンブルの冬が前兆となり、道徳や秩序が崩れ混乱が広がります。フェンリルが解放され、トールと世界蛇ヨルムンガンドが互いに致命的な傷を負い、炎の巨人スルトが大地を炎で飲み込みます。オーディンはフェンリルに飲み込まれ九つの世界は水と火に沈みますが、その後美しい世界が蘇り残った神々と人間が新たな世界を始めます。終わりは始まりであり、破滅の先に未来があるというメッセージが込められています。
ヴァイキングの時代、人々は神々の存在を日常の中で強く意識していました。神々への供犠や農耕の繁栄を願う祭礼が大切にされ、戦士たちはオーディンに知恵を、トールに力を求めました。名誉を重んじる戦士文化が育まれ、スカルド詩が伝えられました。海は神々とつながる道と考えられ、ルーン文字は呪術や護身のための刻印として用いられました。10世紀末以降キリスト教が広まり信仰の中心が変化しましたが、神話の資料はキリスト教化後のアイスランドで書き残されています。
今回は北欧神話についてお伝えしました。世界樹ユグドラシルで結ばれた九つの世界と個性豊かな神々、創世神話と終末神話ラグナロクを通じて北欧文化の独自の世界観が伝わります。中世以後の詩・絵画・オペラ・物語に大きな影響を与え、現代の小説・映画・ゲームの源流の一つとなっています。ThursdayがThor's dayを意味するなど言葉にも痕跡が残り、勇気・知恵・運命というテーマは今も広く共感されています。