
初級2
行動経済学実験
最後通牒ゲーム実験
編集部
「お金を一方的に配れる権限を持つ人は、本当に全額を独占するのか。実験では、まず参加者Aに1000円が渡され、Aは自分の取り分と相手の取り分を自由に決めます。
実験では、まず参加者Aに1000円が渡され、Aは自分の取り分と相手の取り分を自由に決めます。次に参加者Bはその提案を拒否することなくそのまま受け取るだけで、交渉や返答は一切ありません。配分はAが一方的に決定し、そのまま支払いが確定するため、相手の反応を考慮せずに純粋な意思決定が観察できます。
この実験では配分者だけがすべての決定権を持ち、受け手は拒否も交渉もできません。最後通牒ゲームと異なり、受け手の拒否反応を気にすることなく配分者の純粋な公平性・利他性を観察しやすい設計になっています。駆け引きの影響を排除することで、人間本来の分配傾向をより正確に測ることができます。
伝統的な経済学では、人は自己利益を最大化する合理的な行動をとると仮定します。この合理的自己利益モデルでは、配分者は1000円のすべてを自分のものにし、受け手には0円を渡すと予測されます。しかし実際の人間行動はこの予測より公平寄りになりやすく、伝統的モデルと現実とのギャップが実験で明確に示されます。
多くの研究では、配分者は全額を独占せず一定額を相手に渡すことが多いです。平均配分は元手の約20〜30%前後になりやすく、100〜300円を渡す人が約45%と最多です。また、500円を均等に分ける人も約30%おり、0円を渡す人は約15%にとどまります。この数値は実験条件や国・文化によって変動しますが、ゼロ配分が多数派にならない点は多くの実験で共通しています。
人がどれだけ相手に渡すかは、状況や条件によって大きく変わります。匿名性が高いほど配分額は少なくなりやすく、自分で稼いだお金だと手放しにくい傾向があります。また、知人や困っている相手には多く渡しやすく、公平さを意識したフレーミングでも配分は増加します。さらに評価される場面では公平寄りになりやすく、行動は「性格」だけでなく「状況」にも強く左右されることが示されます。
この実験から、人は完全な利己主義だけでは動かないことが示されます。半分に近い配分を好む公平性、相手の利益を気にかける利他性、極端な差を避けたい不平等回避、与えること自体に価値を感じる温かい光効果(ウォーム・グロウ)が行動に影響しています。経済行動には感情・道徳・社会規範が入り込み、純粋に利己的な合理的経済人のモデルだけでは説明しきれないことが明らかになります。
独裁者ゲームは、他の経済ゲームと比べると「相手の反応」がほとんど入らない点が特徴です。最後通牒ゲームでは受け手が提案を拒否できるため、不公平すぎると取引が成立しません。一方、公共財ゲームは複数人で出し合う協力ゲームで、ただ乗り問題を観察できます。比較すると独裁者ゲームは公平性・利他性を比較的純粋に測りやすい設計といえます。
この実験は有用ですが、現実のすべての分配行動をそのまま再現するわけではありません。実験室の状況は日常生活より単純化されており、少額と高額では行動が変わる可能性もあります。また、国や社会規範によって結果が異なる文化差も指摘されており、研究者に見られているという意識(実験者効果)が行動に影響することもあります。結果を読む際は、条件・文化・文脈の違いを十分に考慮する必要があります。
独裁者ゲームは、人間が利益だけでなく公平さや社会規範にも動かされることを実証する重要な実験です。人はゼロ配分だけを選ぶわけではなく、公平性・利他性・社会規範が行動に影響し、状況や文化によって配分は変化します。この知見は寄付行動の研究や企業の報酬設計、福祉・再分配政策の理解、行動経済学の基礎教材として幅広く応用されています。今回は独裁者ゲーム実験についてお伝えしました。