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両利きの経営とは?
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現代経営思想

両利きの経営

編集部

オライリー&タッシュマンが提唱した「両利きの経営」は、既存事業を深め続ける力と、新規事業を探索する力を同時に持つことを求める。なぜ両立が難しいのか、どう組織設計すれば実現できるのかを、理論と実践イメージから解き明かす。

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01両利きの経営とは?

02なぜ両利きの経営が必要なのか?

変化の速い市場では、「今を稼ぐ力」と「未来をつくる力」の両方が必要。深化だけの場合:効率化・キャッシュ創出・安定運営。短期収益は出しやすく既存顧客に強いが、環境変化に弱く将来の伸びを失いやすい。探索だけの場合:アイデア創出・新規事業開発・実験・検証。新機会をつかみやすく学習スピードが高いが、収益基盤が弱く不確実性が高い。現在を稼ぐ力 × 未来をつくる力 = 持続的成長。成熟市場でも技術変化・顧客変化・競争変化がある。だからこそ企業は「深化」と「探索」を同時に考える必要がある。

03「深化」と「探索」の違い

両利きの経営は、性質の異なる2つの活動を同時に扱う考え方。比較:目的(深化=既存事業の効率化・改善・利益最大化 vs 探索=新規事業・新市場・新技術の発見)、時間軸(深化=短中期 vs 探索=中長期)、KPI(深化=売上・利益率・生産性 vs 探索=学習量・仮説検証・将来性)、仕事の進め方(深化=標準化・再現性・最適化 vs 探索=実験・試行錯誤・柔軟性)、失敗の扱い(深化=減らすべきもの vs 探索=学びの源泉)。両者はどちらも重要だが、求められるマネジメントは大きく異なる。

04なぜ両立は難しいのか?

深化と探索は、組織に正反対の要求を突きつける。対立軸:効率性(ムダを減らし生産性を上げる)↔ 柔軟性(変化に素早く適応する)、予測可能性(計画通りにリスクを抑える)↔ 不確実性(未知に挑み可能性を探る)、標準化(ルールを定め品質を安定させる)↔ 実験(仮説を検証し学びを得る)、短期成果(今期の目標を確実に達成する)↔ 長期成長(未来の大きなリターンを創る)、既存顧客最適(既存顧客の満足度を最大化する)↔ 新しい顧客価値(まだ見ぬニーズを掘り起こす)。現場で起こりやすい衝突:既存事業は「確実な成果」を求める、新規事業は「失敗を許す学習」が必要、同じ評価制度・同じ会議体では両者がぶつかりやすい。両利きの経営の難しさは、戦略よりも「組織設計」にある。

05オライリー&タッシュマンの核心

探索と深化を分けつつ、上位で統合する「構造的両利き」。構造:経営トップ/シニアチーム(共通ビジョン・資源配分・統合判断)が、既存事業ユニット(効率・改善・収益)と新規探索ユニット(実験・学習・成長機会)を束ねる。上位での整合・統合の軸:戦略・価値観・資源。現場の運営は分けるが、企業全体の方向性は一つにする。重要なのは、探索を既存事業の論理でつぶさず、同時に全社戦略から切り離しすぎないこと。

06両利きを実現する3つのアプローチ

企業の状況に応じて、両立の方法は複数ある。①構造的両利き:探索部門と既存部門を分ける。最も代表的な方法。向いている場面:大企業/新規事業が大きい/既存事業との衝突が強い。②文脈的両利き:同じ組織の中で、個人やチームが探索と深化を使い分ける。向いている場面:中小企業/裁量の高い組織/俊敏性重視。③時間軸の両利き:時期ごとに重点を切り替え、探索と深化を循環させる。向いている場面:事業サイクルが明確/段階的投資。万能な1つの正解はない。重要なのは、自社に合う両利きの形を設計すること。

07実践に必要な組織設計のポイント

両立はスローガンではなく、仕組みで支える。6つのポイント:①リーダーシップ(短期と長期の両方を語れる経営陣)、②資源配分(探索に専用の予算・人材・時間を確保)、③評価制度(深化と探索でKPIを分ける)、④組織文化(効率と学習の両方を尊重する)、⑤ガバナンス(定期レビューで優先順位を調整)、⑥知識移転(探索の学びを全社へ還元する)。注意:同じ評価軸・同じ会議運営・同じ予算ルールのままでは、探索は弱くなりやすい。両利きの経営は、戦略・組織・人事の連動があって初めて機能する。

08企業での実践イメージ

既存事業を伸ばしながら、新たな柱を育てる(例:BtoB SaaS企業)。既存事業の深化:主力SaaSのUI改善、営業プロセスの最適化、既存顧客の解約率改善、利益率の向上。新規事業の探索:AI機能の新プロトタイプ、新しい顧客セグメントの検証、小規模PoCの実施、将来の成長エンジンを育成。経営の役割:資源配分を決める・撤退と継続の判断をする・探索成果を既存事業へ接続する。現場で重要なのは、「同時にやる」ことではなく、「違う論理を理解した上で両方を回す」こと。

09導入のための実践ステップ

いきなり完璧を目指すのではなく、段階的に設計する。5つのステップ:①既存事業を診断する(何を深めるべきかを明確化)→②探索テーマを定める(顧客課題・技術変化・市場変化から選ぶ)→③小さく分けて試す(専任チームやPoCで検証)→④評価軸を分ける(収益KPIと学習KPIを区別)→⑤経営が統合する(資源配分と拡大判断を行う)。最初から大規模に始める必要はない。小さな探索を継続し、成功の芽を育てることが重要。両利きの経営は、一度の施策ではなく「継続的な経営習慣」として育てる。

10まとめ

既存事業の深化と新規事業探索を両立できる企業が、変化に強い。4つの整理:①両利きの経営とは(深化と探索を同時に進める考え方)、②難しさの本質(両者で必要な組織論理が異なること)、③成功の鍵(分けるところは分け、上位で統合すること)、④実践の姿勢(小さく試し、学びを積み上げ、継続すること)。「今を強くする経営」と「未来を生む経営」を、二者択一にしない。両利きの経営は、短期成果と長期成長をつなぐ経営思想である。